A群β溶血性連鎖球菌という細菌によって起こる感染症です。一番よく見られるのが急性咽頭・扁桃炎です。
その他に猩紅熱、とびひ(伝染性膿痂疹)、丹毒、一時「人食いバクテリア」と呼ばれ話題になった劇症型溶連菌感染症などがあります。合併症として急性糸球体腎炎やリューマチ熱があり、風邪と違ってしっかりとした治療が必要な感染症です。
→ 溶連菌感染症の中でもっとも代表的なものです。当クリニック受診のお子さんも、ほとんどが溶連菌による咽頭炎・扁桃炎です。4歳以上の子供に発症しやすく、それ以下の子供には発症しづらいとされます。潜伏期は2から10日で、冬季および春から初夏にかけての流行があります。咳や鼻汁などの風邪の時に多く見られる症状を伴わず、「のどの痛みと発熱」で発症するのが特徴です。首のリンパ節が腫れることが多く、のどは真っ赤に腫れあがり、扁桃腺には白色の膿(うみ)を見ることが多いです。舌の表面は赤いブツブツした苺のようになり「苺舌」と言います。のどの痛みよりも腹痛や嘔吐、頭痛を訴えて受診し、溶連菌感染症と診断される場合もあります。3歳以下では、特徴的な症状を伴わないため普通の風邪と区別はできないと言われています。
→ 急性咽頭炎に引き続き12から48時間後に、全身に赤い細かい点状の発疹が密生して出現し、「日焼け」した皮膚の様になります。そして強いかゆみを伴います。これを「猩紅熱」と言いますが、溶連菌が毒素を出すための症状です。赤くなった部分は大体1週間位で顔から皮がむけ始め(落屑と言います)、3週間ほどで全身の皮がむけて、元どおりの皮膚に戻ります。
猩紅熱の画像:鮮紅色の細かい発疹が密集して出現し、日焼け様に見える
→ 溶連菌による皮膚の感染症です。とびひは黄色ブドウ球菌によって起きることが多いのですが、溶連菌によるものも1割弱あります。夏に好発し、3歳以下の子供に多く見られるのが特徴です。虫刺され、ケガの部位から溶連菌が入って発症しますが、アトピー性皮膚炎の患者にも多く見られます。水泡(水ぶくれ)が途中から膿(うみ)を持つようになって破れて、皮膚がめくれて「ただれた状態」になります。溶連菌によるとびひでは、厚い「かさぶた」が出来るのが特徴で、周辺のリンパ節が腫れてきます。ブドウ球菌によるとびひでは、病変部に黄色い膿ができ、そこから全身に広がって行くことが多いです。病変部にかゆみを伴うので、引っ掻いて次々に広がっていくので「とびひ」と言います。
→ 以前は「面疔」と言われていました。皮膚の表面に近い真皮という部分で溶連菌が感染を起こし急速に広がっていきます。丹毒の部位は強い発赤があり、触れると強い痛みがあります。健常な皮膚との境界が鮮明なのが丹毒の特徴です。高熱や全身の倦怠感などの症状を伴い、放置すると敗血症などを合併することがあります。顔と手や足に出やすいとされます。
→ 溶連菌感染症は、「のど」や「皮膚」に感染するのが普通です。しかし劇症型の場合、血液や筋肉などの通常溶連菌が存在しない部位に感染を起こして、手足の激しい痛みや腫れ、発熱などが出現します。症状は急速に悪化し、発病後1から2日のうちに血圧低下、チアノーゼ、意識混濁をきたしショックを起こします。適切な治療を受けないと死亡する、極めて予後不良の感染症です。健常者に発症することが多く「人食いバクテリア」として一時期話題になった感染症です。日本では毎年100~200人の患者が報告されており、このうち約3割が死亡しています。小児では「水ぼうそう」に罹った後に起きやすくなります。
→ 溶連菌感染症から3から4週間後に「急性糸球体腎炎」と「リューマチ熱」を合併することがあるので、注意してください。これは溶連菌感染によって、異常な免疫反応を起こすためです。合併症の予防で一番大切なことは、抗菌薬を必ず10日間内服することに尽きます。子供の急性上気道炎(いわゆる風邪)の大部分はウイルス感染症ですから抗菌薬は不要ですが、溶連菌感染症だけは抗菌薬が不可欠です。我々小児科医は、咽頭所見から溶連菌感染を疑った場合、必ず検査をして確認します。
→ 綿棒で、のどから菌を拭い取って迅速検査をします。10分程で結果が判明します。ただ抗菌薬を内服中には検査が陰性になりますから、判断が難しくなります。治療はペニシリン系の抗菌薬を10日間確実に服用するのが基本です。合併症の予防のため症状が改善しても途中で薬を中止しないでください。
注)ペニシリン内服でリューマチ熱の確実な予防効果は確認されていますが、残念ながら急性糸球体腎炎の完全な予防効果は確認できていません。ですから発症後4週間位は「尿量が少なくないか、血尿がないか」ご注意ください。症状出現後1ヶ月後位に血圧と検尿を検査をするのが一般的です。
→ 抗菌薬の内服開始後24時間で感染力がなくなりますから、登園・登校は可能になります。
→ 感染経路は飛沫を介しての感染ですから、患者の咳やくしゃみを直接浴びないこと(濃厚接触を避けること)が基本です。
→ 学童の20%位が溶連菌の保菌者と言われます。保菌とは、のどに菌が住み着いているものの、感染は起こしていない状態です。この場合「のどの痛みや熱」などの症状はなく、治療の必要も周囲に感染することもありません。のどの痛みがない場合や、繰り返し溶連菌が検出される時は、単なる保菌者である可能性が高く治療は必要ありません。
【引用文献】
久田研ら イラストを見せながら説明する 子供の病気とその診かた p.257-260
国立感染症研究所 IDWR 感染症の話 2003年第37号、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、2013年第8号、劇症型溶血性レンサ球菌感染症
鈴木通雄ら 小児感染免疫 Vol. 20 No. 3 2008 p.292-300 小児膿痂疹患者の臨床的および細菌学的検討
草刈ら 小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン ―私たちの提案―
外来小児科 Vol. 8 No. 2 (2005) p.146-173
東京都感染症情報センター ホームページ 劇症型溶血性連鎖球菌
井上健斗 溶連菌感染症(A群β溶血性レンサ球菌性咽頭炎)と抗菌薬 小児科 Vol. 13 2016 p.1570-1571